三ない運動の何が問題なのか?[4]

三ない運動はどこへ向かうのか?

埼玉県は、三ない運動をやめて、その代わりに“乗せて教える”交通安全教育に転換する方針を取った。ただし、「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」会長の稲垣具志氏はこう続ける。
「教育というのは受けるもので、施すものではありません。受けた側が変わって、初めて教育なんです」

座学にしろ実技にしろ、何をどのように教えるべきなのか。実技講習で教えている内容が公道を走る上でどう活かされるのか、その意味を受講生に明確に教える必要があると言う。こうした点を精査する上で、とても重要な行程が「モニタリング」だ。埼玉県ではモニタリングの組織委員会を立ち上げている。その点についても稲垣氏に伺った。

●モニタリングでのポイントとは?

まず、交通安全教育と安全運転講習が本当に生徒たちの行動を変え得るのかどうかということ。座学と実技がリンクした状態で講習が進んでいるのか、また、問題になっている“隠れ乗車”していた子たちがどれくらい変わったのか。さらに、事故が起きているのであれば何が問題だったのか。

例えば、バイク事故が起きた原因が道路環境であるならば、それは二輪車事故抑止の観点から是正する必要がありますし、その原因が規制であるならば、モニタリング組織の中には道路管理者も入るべきです。モニタリング組織とは、高校生の安全な二輪車利用を一つの転機として、二輪車の通行環境、走行環境、利用環境を考える組織でもあるべきです。

●モニタリングの成果と指標については?

定量的にベーシックな話をするのであれば、受講者の数です。バイクに乗りたいという子の数、隠れ乗車をしていた子の数、さらにはやんちゃな子がどのくらいいて、そういう子らも白バイ隊員から指導を受けたという数です。

定性的であれば、講習会等で実施されるアンケート調査においてどのようなレスポンスがあったのか。また、2年、3年と経った時に、令和元年度の受講生に対して卒業時にアンケートを実施するということもあり得ます。とにかく、当事者を抜きにした評価をしてはいけないと思います。なお、事故が起きたのか起きていないのかというのは基本中の基本として押さえるべきところかと思います。

教育は、効果を図る指標というのが本当に難しいんです。交通安全教育は試験をやるわけではないので、平均点が上がって良しというものでもありません。本当にちゃんと見ようと思ったら、その子をしっかり追いかけて交通安全に関する行動がどれくらい促進されたのかをモニタリングする必要があると思います。

●三ない運動は家庭に帰ってくる

三ない運動のように、PTAから始まって教育現場に丸投げしていたものがなくなると、実は家庭に帰ってきます。なので、家庭でどれだけ交通安全教育をやっているのかというところも重要です。埼玉県では免許取得時やバイク購入時に誓約書を書いてもらいますが、その時に、親も同じリスクを背負うんです。生徒だけでなく、家で「乗っていいよ」と許可するので、家庭での交通安全教育が促進されているのかというのも追いかけたいところです。

※写真はイメージです