三ないから「乗せて教える」教育へ〈前編〉
■埼玉県が三ない運動をやめ、前向きな交通安全教育をスタート
三ない運動は、2012年の全国高等学校PTA連合会(和歌山大会)以降、マナーアップ運動への転換をかかげ、全国組織的な活動は終了した。ただし、各地域により事情が異なることから、その後は各都道府県の高等学校PTA連合会(高P連)や教育委員会(県教委)が独自の活動をしている。
47都道府県のうち、県教委によっては、21件が「特に方針・制限はない」、12件が「各学校の判断による」としており、これは三ない運動が各校に丸投げされたことを意味している。これらの都道府県では、以前と変わらず、三ない運動が継続されているところも多いのが実態なのだ。さらに、6件の県教委が「原則として免許取得禁止」と明言している。その中でも入学時に「高校生にバイクは不要」と書かれた書面を配布するなど、県を挙げて三ない運動を推進していたのが埼玉県だった。
その埼玉県が、2019年4月1日から新指導要項を施行し、三ない運動を撤廃した。条件付きだが、免許取得、バイクに乗ることを許可制としたのだ。しかも、原付バイクでも自動二輪でもOK。保護者の同意を得た上で学校に届け出て、任意保険への加入や安全運転講習会への参加といった条件をクリアすれば、バイク通学の有無に関係なく免許を取得して自由にバイクに乗れるようになったのだ(私立高校は各校での判断)。
この2019年は、7月から12月まで、埼玉県内の5エリアで計6回の安全運転講習会「令和元年度高校生の自動二輪車等の交通安全講習」が開催された。参加対象となる生徒は、免許を持っていて日常的に運転している生徒だが、各学校では「免許を持っているけどバイクに乗っていない生徒」にも参加を呼び掛けた。
こうして、埼玉県教育委員会の主催で行われた講習会には、2019年4月以降に免許を取った生徒に加え、それまで隠れてバイクに乗っていた生徒も多数参加したのだ。
安全運転講習会の内容は講義と実技に分けられ、講義では埼玉県警察本部による県内の事故・違反状況や交通社会人としての自覚、交通事故時の対応などの講義。実技では、バイクの日常点検や乗車姿勢、ブレーキのかけ方やカーブの曲がり方、低速でのバランスの取り方といった運転技術のほか、AED(自動体外式除細動器)の使い方や救急救命法のレクチャーが行われ、とても実践的な講習会となった。埼玉県における高校生への交通安全教育はまだ始まったばかりだが、2020年からは、モニタリング組織による継続的な検証が予定されている。
(つづく)
report&photo●田中淳麿