なぜ、16歳でバイクに乗れないの?[4]

三ないから「乗せて教える」教育へ〈後編〉

■埼玉県はどのように三ない運動を撤廃したのか?

「高校生にバイクは不要」と、三ない運動を強力に推進していた埼玉県は、なぜ三ない運動から交通安全教育に移行できたのだろう。発端は埼玉県議会議員の松澤正議員(自由民主党)による県議会での質問(平成28年9月定例会一般質問)だった。松澤議員は以下のような内容の質問をした。

「本県は三ない運動を推奨しています。三ない運動の主旨はわかりますが、在学中だけバイクを遠ざけることで事故のリスクを回避するという『事なかれ的指導』と受け取ることもできます。生涯を通じて交通社会に生きる高校生にとって真に役立つものか疑問です。

不安だからという理由で遠ざけることは、結果として道路交通法や安全運転を学ぶ機会を奪っているのではないでしょうか。バイクは危ないものと一面的に捉えて遠ざける教育が、高校生の命や輝かしい将来を守り、交通事故から守ることにつながるのか、いま真剣に議論すべきです。

選挙権年齢も18歳以上に引き下げられ、今の高校生は在学中に主権者となります。高校生本人が自ら考え、保護者の同意があれば、法で認められているバイクの免許取得を許可し、道路交通法や安全教育を学ばせ、バイクの乗車を認めるべきではないでしょうか。教育長はどうお考えですか?」

この質問に対して、関根郁夫教育長は、三ない運動が高校生のバイク事故死傷者を減らした効果を示しつつも、交通網や社会情勢など高校生を取り巻く情勢の変化、自主自立の精神が求められていること、生涯を通じた交通安全教育の大切さを挙げ、検証組織を立ち上げて検討すると回答した。

質問をした松澤正議員は元教員だった。県議会では、三ない運動に限らず、教員の教務のあり方など、さまざまな教育課題について教育長とやり取りしている。

この議会でのやり取りにより、2016年12月、教育委員会の主催で「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する検討委員会」が設置され、1年2ヶ月もの間、計9回にわたって、高校生の交通安全教育について教育関係者らが真剣に議論を重ねた。高校生1,640名へのアンケート「埼玉県高校生の原付・自動二輪車に関する意識調査」も行われ、生徒のバイクに対する認識や興味・関心、バイク通学も含めた日常生活での必要性なども資料として活用されている。

2018年2月、この検討委員会でまとめられた報告書が教育長に提出され、その年の9月に「高校生の自動二輪車等の交通安全に関する指導要項」が制定された。「子供を守りたい」というPTA(保護者)の精神を継承しながらも、新たな指導要項により「乗せて教える」交通安全教育へと転換したのである。

report&photo●田中淳麿